アートは人類学とともに成長する。 / 『美術手帖2018年6月号 アートと人類学』

アートと人類学が向き合い、お互いを見つめ合う。人間存在のあらゆる側面を探求してきた人類学は、同様にその美術にも関心を向ける。同様にアートを創造し続けるクリエイターたちは、人類学から大いなる影響を受けてきた。アートと人類学が交差する場所について、多数の実践に関するレポートと、その考察が豊富にまとめられた特集がある。

 

美術手帖 2018年6月号  |  美術手帖編集部

ローマに降り立った翌日、バチカンに向かって石畳の道路をまっすぐ歩いている途中、大きな教会の真横で布を広げてアクセサリーを売る男に出くわした。白い布の上には銀と銅でできた指輪やネックレス、ブレスレットが綺麗に並べられ、高価なものほど上に配置されていた。不愛想な顔で無言を突き通す老人を前にして、ふと手に取った指輪は、銀と銅の細い糸状の素材が編むようにして交わり、ひとつのリングを作り出していた。

立ち止まってまじまじと見つめるうちに目に留まったのは、熱で溶接したことがあからさまになったそのつなぎ目。そこで銀と銅が不自然に溶け合い、均等な糸状の交差のリズムを崩していた。結局そのリングを老職人から購入することはなかったのだが、その不自然なつなぎ目は、教会を通り過ぎてバチカンにたどり着き、アラブ人が作る不味いピザを頬張っている時でさえ、なぜか愛おしく思えたのである。人間臭さというか、その老人が溶接するシーンというか、綺麗な交差によって作り出されたリングの内側に突如現れた不完全なものは、長らく東アジアのバックパッカーの心に纏わり付いた。

アートは、その物質そのもの以上に、その背景や思想、その周辺に起こるストーリーが人を惹きつけるのではないかと思うのだ。その種類は無限に近く、その背景やストーリーは人間の所属するコミュニティやその慣習に強く依存する。そうして人類学は、そうした人間存在のあらゆる事象に目を向ける中で、もはやアートを無視することはできない。

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