猫とネズミとカラバオ

ネズミは、隣り合うふたつのコーヒーショップの正面に立つ。朝から降り続いた雨は、午後の2時をすぎる頃にぱたりと止んだ。T字路を曲がった白人の男に近寄り、得意の上目遣いと甘い声で話しかける。この男ならいける。そんな思いは瞬く間に打ち砕かれる。男に気づかれないように小さく舌打ちをし、コーヒーの香りが漂う小道の真ん中、毎日のように立つ自分の定位置に戻ってくる。客足が増えた。午後は狙いどきかも知れない。

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猫はふと見上げた。小道を覆うビニールに叩きつけるような雨音が止んだ。パラソルの下で雨宿りをしていた帽子屋の女が外に出てきた。肉屋の男は、相変わらずの不愛想な顔で生肉をさばいている。ふたりの少年が横を通り抜ける。こちらの様子には見向きもしない。首にかけた小さな財布が風になびく。中には何も入っていない。大きくため息をひとつ。そして飛び跳ねるように、人混みの中に駆けていく。

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たくさんのリンゴを抱えた女の肩がぶつかる。カラバオはよろめく。仲間の姿を探すが、見つからない。唇を歪め、気だるげな声を出す。マットを売る店の屋根から水滴が落ちてきた。そういえば、空が明るい。見上げると、カラマンシーを詰め込んだ箱を抱えた男がゆっくり通り過ぎていく。汗の臭いが鼻を刺す。雨季の街は嫌いだ。じめっとして、どこか暗い。ネズミの姿を探すが、まるで見つからない。猫はきっと遠くへ行ってしまった。退屈な雨は止んだ。カラバオは緩やかな坂を下る。