colorful_baguio_earring

マーケットの入り口付近、薬局を抜けて建物の奥に進む。密集した店と無造作に積まれた売り物、他愛もない話に熱中するハイランダーたちの熱気は凄まじい。

初めてバギオを訪れたのは3年ほど前、ここからさらに奥に進んだ場所に広がる木彫り雑貨の店の集まりに、ひどく圧倒されたことを今でも覚えている。ひとえに木彫りといっても、田を耕す農民をかたどったものから戦闘に向かう戦士、チェスの駒、食器、そして時には男性器をかたどった置物まで、その種類は幅広い。その豊富さ、そして繊細さに一瞬で魅了された私は、毎週末このパブリックマーケットに足を運び、膨大な作品群を眺め、当時住んでいドミトリーの本棚は買い付けた木彫りで埋め尽くされた。 

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彼女に出会ったのは、留学から帰国し、一年半ぶりにバギオを訪れた時のこと。通い詰めた木彫りの工房を左に、イスラムの女が布を売る店を抜け、その突き当たりにある店で、彼女は雑貨を売っていた。雑貨といっても、木彫り雑貨のような手の込んだものではなく、色のついた石やプラスチック製のビーズを使ったキーホルダーのようなもの、「I LOVE BAGUIO」と書かれた、いかにも観光客向けといったもの。悪いが陳腐としか言いようのない店の前に椅子を置いて、彼女はそこに堂々と腰掛ける。そうして、日曜の人混みを前に眉間にしわを寄せ険しい視線を向けている日本人に、彼女は巧みな日本語で話しかけるのである。

「ねえ日本人、何て名前」

どうせ日本人や韓国人をカモるために覚えた釣り言葉だろうと思いきや、彼女の口からは流暢な日本語が発されていく。学校で初めて日本語に触れたこと。日本のアニメに熱中して、テストの成績が落ちたこと。「るろうに剣心」に惚れ込んだこと。そして、いつか日本に行きたいこと。話していくうちに、わかったことは多くある。彼女の日本語は並大抵でないこと、周囲の店のスタッフとの仲が良いこと、店の品物を売る気など大して無いこと。気張らずマイペースに生きて、それでいて熱狂するものを持っていて、分け隔てなく他者を歓迎する姿勢に、非衛生的な旅の暮らしによる曇った心が少しはれたような気がした。

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マーケットの仲間たちは元気だろうか。今もきっと変わらない喧騒の中で、細身の男は採れたてのイチゴを店頭に芸術的に積み上げ、無愛想な女は甘すぎるジャムを売り飛ばす。雑貨屋の彼女は、今も流暢な日本語で日本人を引っ掛けているのだろうか。いつか日本に行きたいという願いを、もう叶えられただろうか。大通りの景色が目まぐるしく変わるバギオで、唯一変わらないこの場所に、この夏も入りびたれることほど、熱狂できるものはない。

 

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